手織りの布と共にある暮らし①

手織りの布と共にある暮らし①

子どもの頃から、我が家には織機がありました。母は、家族のものや家で使うものをいろいろと織っていました。

マフラーや、父の背広、着物や服地。
コースターから、ランチョンマット、ラグマット、こたつ掛けなど大小の敷物。
その他、のれん、座布団カバー、ブックカバー、バッグなど。


販売しているもの以外はあまり見ていただく機会はありませんが、コースターやマフラーの延長上にある手織布のある暮らしを少しずつ折に触れて紹介していきたいと思っています。

【玄関に敷いている、浴衣を裂き織りにしたマット。】

玄関を入るとすぐ、2畳の畳スペースがあります。じゅうたんなどを敷くよりも、和の雰囲気に合っていて気に入っています。通り道なので、畳保護の役割も。

藍色の浴衣を裂き織りにしています。白地の浴衣は一度インド藍で染めてから裂き織りに。
洗濯機で洗えるので、手入れも気楽にできます。たぶん、20年くらい使っているかも。丈夫です。

【縁側の奥の物置きスペースを目隠しする、柿渋染めの暖簾】2畳

母が、一時柿渋染めに凝っていた時があって、座布団カバーや着物地など、いろいろ織っていました。
縁側の奥まったスペースはちょうど物を置いておくのによいスペースですが、ごちゃごちゃしがちなのが悩みです。上から下まで垂らす暖簾のようなカーテンを付けることですっきりと見えるようになりました。
柿渋の色合いがナチュラルなので、木や紙でできた空間にもよく似合います。
素材は木綿、色も柿渋で自然なものなので、和風ともナチュラルとも違和感なくなじんで心地よいです。

【裂き織りの座布団カバー】

母がお友達のオーダーにこたえて作ったミニ座布団。一つ一つ違う柄で。人が集まることの多いお宅のようです。

【裂き織りのこたつ掛け】

自宅で使っているこたつ掛け。裂き織りなので、しっかりとした質感で、どっしりとしています。
秋田にあった母方の実家では、裂き織りのこたつ掛けを使っていたそうです。母は、子ども心にそのこたつ掛けが印象に残っていて、織り物をする動機の一つになっているようです。

ちょっと重いかな、と思うのですが、裂き織りのこたつ掛けをすると部屋の雰囲気がぐっと良くなります。もともと庶民の織物だった裂き織りですが、逆に高級感さえ感じて部屋の格調が上がる気がします。かなりの大作ですし、全く同じ物がない一点ものなので、アートっぽいのかも?

私は、自分の母が作っているということもあるのでしょうが、そういう手織の布のものに包まれる暮らしがとても心地よく感じます。

実は、10代の頃はあまりその良さが分かっていませんでした。当たり前に身近にあり過ぎたのか、世の中で流行っているものの方が魅力的に見えたのか。結婚して実家を離れて、子どもができて、歳を重ねて、改めてその良さを再発見できました。

素材や作る過程のこだわりをずっと見てきて、ひとつひとつの物語を知っているからかもしれません。どの工程もすごく手間がかかるのに、いつもワクワクしながら織ったり染めたりしている母の姿を感じるからかもしれません。



ただ、そういうことは抜きにしてモノとして見た時にも、なんとなく心地よさを感じるような気はしています。素材の良さを生かしたシンプルなデザインは、違うものを使って作っていても全体としてナチュラルな雰囲気をまとっています。丈夫さ、使いやすさ、肌触りの良さ等、機能面も気に入って長く使えるものが多いです。作る過程でも、環境や健康に負荷のかかるものがほとんどないということも、安心して気持ちよく使える理由になっています。布に関しては、なかなかのスローライフではないかということに気が付きました。そして最近、スロークローズという言葉も知りました。


食に関してはスローフードや食育などいろいろなムーブメントがあるし、一般に関心が高いので、衣に関しても食と比較してみるとわかりやすいかもしれません。そこで、まずスローフードについて少し。

ファーストフードに対して、スローフードという言葉があります。日本スローフード協会のHPによるとスローフードについて以下のように書かれて書かれています。

「スローフードは、おいしく健康的で(GOOD)、環境に負荷を与えず(CLEAN)、生産者が正当に評価される(FAIR)食文化を目指す社会運動です。 “食べる”ことは私たちの生命に直接関わり、人間の歴史を築いてきました。そこには、あらゆる地域の伝統・叡智・喜びなどが込められています。料理を味わって楽しみつつ、料理の皿の外にあるその見えない味付けを考えるのが、私たちスローフードの運動です。 地球や社会の環境が大きく変わろうとしている今、様々な分野や世代を越えて多様性に満ちた持続可能な暮らしを考えていかなければなりません。」

(日本スローフード協会のHPより)


単にゆったりとした食事の時間を大切にしようということではなく、健康や、文化や、地球の環境やいろいろなことを大切にしながら食について考えて実践していこうというムーブメントです。「スロークローズ」という言葉が生まれたということは、「食」と同じように、「衣」についても大量に生産し大量に消費することへの反省を込めて、同じような価値観を大切に考える人が少しずつ増えているのではないでしょうか。


食に比べると、衣を原料や環境から考えるということは、日常の生活から距離があります。それこそすべて取り入れるのは難しい。家で料理をすることは今でもほとんどの家庭で日常の風景ですが、家で布を織る風景はほとんどの家庭が手放してきました。家事の一環だとしたら、とんでもなく大変な作業で、主婦としてはできたらやりたくない作業だったはずです。なんといっても、素敵なものが手軽に買えるようになったのですから。



うちでも、繊維製品の大部分は購入しています。織って作る布のものはプラスα的な存在です。昔のように必要に迫られて作るわけではないから、ある意味気楽に、楽しみとして続けていられるということはあると思います。

作る過程を知っているから、家で作ったものはもちろん、買ったものであっても大切に使おうという気持ちになります。ものが豊かにあって手軽に手に入る時代であっても、時々、綿は植物だということや、作る過程を考えたらぼろ布でも貴重で捨てられないという気持ちを思い出すのは良いことだと思います。そして、うちで作っているものや糸紡ぎなどの綿仕事を見てもらうことは、世の中から薄れているそういう感覚を思い出してもらったり、知ってもらう一つの機会になるかもしれないと思います。

家で使う布のものを自分で作る。糸から織る。時には種を蒔いて収穫した綿から糸を紡いで織る。大量生産できないもの、貴重な材料を使って作る。失敗したものもアートっぽくて面白い。

あまりストイックではなく緩やかな布生活です。楽しんでいただけたら幸いです。

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